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僕ロニクル 〜ゆるゆる、シンプルに生きたい男の年代記〜

30代男の日常を徒然なるままに。旅、仏像、文房具、手帳、シンプルライフ、料理なんかに釣られます。

映画感想文 「リップヴァンウィンクルの花嫁」観ました。

レビュー 映画

もう名古屋では上映も終わりを迎えそうな時期ですが、遅ればせながら「

リップヴァンウィンクルの花嫁」を観てきました。以下、ネタバレありますので未鑑賞の方はご注意を。

リップヴァンウィンクルの花嫁のあらすじ

岩井俊二監督が、長編実写の日本映画としては「花とアリス」以来12年ぶりに手がけた監督作。「小さいおうち」で第64回ベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞した黒木華を主演に迎え、綾野剛、Coccoらが共演する。SNSで知り合った鉄也と結婚することになった派遣教員の皆川七海は、親族が少ないため「なんでも屋」の安室に結婚式の代理出席を依頼して式を挙げる。しかし、新婚早々に鉄也が浮気し、義母から逆に浮気の罪をかぶせられた七海は家を追い出されてしまう。そんな七海に、安室が月給100万円という好条件の住み込みのメイドの仕事を紹介する。そこで知り合った破天荒なメイド仲間の里中真白と意気投合した七海だったが、真白は体調がすぐれず日に日に痩せていく。そんなある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出す。

リップヴァンウィンクルの花嫁 : 作品情報 - 映画.comより

リップヴァンウィンクルの花嫁 レビュー

この映画は黒木華のPVである

それ程映画好きでもない僕でもやっぱり高校生くらいの時には岩井俊二ワールドは一応体験していまして。「love letter」とか「スワロウテイル」とか。大体あのくらいの年頃には通過儀礼的に皆通る道なのでしょう。

で、久々の岩井俊二作品。すごく「らしさ」が出ていたなーというのが、第一印象。劇場で観てこその映画。とにかく映像が綺麗。黒木華の魅力を100%ひき出すとしたら、こんな作品になりました。みたいな感じ。黒木華ありきの作品。どこかで黒木華の壮大なPVだ、みたいなことを書かれているのを見かけましたが、僕も同感です。でもそれは悪い意味じゃなく、黒木華という女優でなければこの映画は成立しなかったのかなと思います。実際監督は黒木華をイメージしてこの脚本を書いたようなことを言っていましたし。

例えば、黒木華演じる主人公七海はホントにどうしようもないダメ女です。とくに前半部分。主張がなく、ふらふらとしていて、隙がありすぎる。ネットでペラペラと私生活を暴露してあっさり旦那に感づかれたり、安室のような怪しげな何でも屋をいとも簡単に信用する。初めて会った旦那の浮気相手の彼氏と名乗る男を簡単に家に入れてしまう。逆にホテルの部屋にホイホイと入って行ったりもする。安室にも何度も騙されているはずなのに一向に気づく気配がない。普通なら観ていてイライラしてしまうところですが、不思議とそう感じさせない。これは黒木華の演技力なのか、持って生まれた人柄なのか。どちらにせよギリギリのところでイライラさせないんですよね。今までこの女優さんについてよく知りませんでしたが、一発で好きになってしまいました(笑)子猫などを愛くるしい、守ってやりたいと思う人間の本能的な部分をくすぐられます。

現実と虚構

現実と虚構を上手くミックスしたお話。リップヴァンウィンクルというのは元々アメリカの短編らしく、アメリカ版浦島太郎のようなお話だそうです。

アメリカ独立戦争から間もない時代。呑気者の木樵リップ・ヴァン・ウィンクルは口やかましい妻にいつもガミガミ怒鳴られながらも、周りのハドソン川とキャッツキル山地の自然を愛していた。ある日、愛犬と共に猟へと出て行くが、深い森の奥の方に入り込んでしまった。すると、リップの名を呼ぶ声が聞こえてきた。彼の名を呼んでいたのは、見知らぬ年老いた男であった。その男についていくと、山奥の広場のような場所にたどり着いた。そこでは、不思議な男たちが九柱戯(ボウリングの原型のような玉転がしの遊び)に興じていた。ウィンクルは彼らにまじって愉快に酒盛りするが、酔っ払ってぐっすり眠り込んでしまう。
ウィンクルが目覚めると、町の様子はすっかり変っており、親友はみな年を取ってしまい、アメリカは独立していた。そして妻は既に死去しており、恐妻から解放されたことを知る。彼が一眠りしているうちに世間では20年もの年が過ぎ去ってしまった。

観ていて感じたこの現実と虚構。例えば真白と過ごしたあの洋館での出来事は虚構の部分なのでしょう。そして現実の世界と虚構の世界をつなぐ役割が安室。安室によって洋館へと連れてこられ、度々安室が顔を見せるたびに物語は展開していく。そんなことを考えていてふと村上春樹の世界を思い出しました。さしずめ安室は村上ワールドで言う所の牛河のような存在なのかもしれません。あるいは「海辺のカフカ」に出てくるカーネル・サンダースのような存在かも。

ところで安室演じる綾野剛もすごく良かったですね。はまり役です。安室は胡散臭いけど、どこか憎めない。どう見ても七海の味方ではないけれど、憎んでいたり、陥れようと思っているわけでもない。金のために動いているようでもあるし、そこまで金に執着してギラついても見えない。そんな淡々とした、感情のないキャラクターをとてもうまく演じていたように思います。安室のそういうところも村上作品における牛河みたいなんですよね。やはり現実と虚構とを結びつける使者であり、舞台装置のような役割なのかもしれません。

ちょっと長すぎやしないか? 

3時間はちょっと長かったかなー。特に真白との洋館での描写や、ウェディングドレスを着るシーンなどは流石に冗長ではないかと。真白演じるCoccoの配役は個人的には違ったかなと思います。他に誰か適役がいたのでは?うーん誰だろ。まあストーリー上少しお姉さん的存在で、壊れそうな危うさを持った人でなければいけないですが、Coccoでは流石に売れっ子AV女優役は厳しいかな。この映画では全編通じてアドリブと思われる部分が多いのですが、Coccoのアドリブ(と思われる部分)はなんとなく観ていてキツい。これは好みかもしれませんけど。真白のセリフ、幸せの限界を語るところも好意的な捉え方が多いようですが、僕はちょっとキツかったな。なんかムズムズしました。

全体としては楽しめた

とは言え全体としては楽しめました(長いけど)。黒木華の魅力を知っただけでも映画館で観た価値は充分にあります。でも、もう一度観たいかと言われたら前半部分だけでいいかな。多くの謎があり、いろんな捉え方かできる映画ですので評価はだいぶ別れるかもしれません。でも良くも悪くもThe映画。「映画を観た」という満足感は高いかと思います。岩井俊二監督の過去の作品を観返したくなりました。

 

 

リップヴァンウィンクルの花嫁

リップヴァンウィンクルの花嫁

 
キネマ旬報 2016年4月上旬 No.1713

キネマ旬報 2016年4月上旬 No.1713